本当にあった食べものと命のお話

ごきげんよう。スマイリー平野😊です。

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2月5日(火曜日)に三重県伊賀市のいがっこ給食センター夢で、保護者向け「給食試食会」が行われました。23人のお母さんが、給食調理の様子を観て栄養教諭の先生から説明を聴かれたあと、生徒と同じ給食を賞味されました。

初めて見られる大きな回転釜での調理や、徹底した衛生管理体制に興味津々で、スマホで写メや動画を撮られていました。27日にも見学・試食会が予定されています。

その帰りに名阪国道で牛を乗せたトラックを見かけました。以前、読んだ本を思い出し、今日は、そのお話を書かせていただきます。

いのちをいただく (牛のみいちゃんがお肉になる日)内田美智子・文

 坂本さんは、食肉センターにつとめています。牛を解いて、お肉にする、大事な仕事です。(※解くという言葉は、牛や豚を殺すことを意味します。食肉センターなどで、実際に使われている言葉です。)でも坂本さんはこの仕事がいやでした。牛と目が合うたびにいやになるのです。「いつかやめよう、いつかやめよう。」と思いながら、働いていました。

 坂本さんには、しのぶ君という八才の子どもがいます。ある日、坂本さんは、しのぶ君の授業参観に行きました。社会科の「いろんな仕事」という授業でした。先生が子どもたちひとりひとりに、「お父さんお母さんの仕事は、どんな仕事ですか?」とたずねていました。坂本さんが、しのぶはなんと答えるだろうと不安に思っていると、しのぶ君は、小さな声で言いました。「肉屋です。ふつうの肉屋です。」坂本さんは「そうかぁ。」とつぶやきました。

 その日の夕方、しのぶ君は帰ってくると「お父さんが仕事ばせんと、みんなが肉ば食べれんとやね。」いきなりそんなことを言いました。坂本さんはおどろいて、何かあったのか聞きました。しのぶ君は学校の帰りぎわ、先生に呼び止められました。「坂本、なんでお父さんの仕事ば、ふつうの肉屋て言うたとや?」「ばってん、カッコ悪かもん。一回、見たことがあるばってん、血がいっぱいついてからカッコ悪かもん。」しのぶ君がそう答えると「坂本、おまえのお父さんが仕事ばせんと、坂本も先生も校長先生も、みんな肉ば食べれんと。すごか仕事ぞ」と教えられました。しのぶ君はそこまでいっきに話し、最後にもう一度、「お父さんの仕事はすごかとやね。」と言いました。坂本さんは、もう少し仕事をつづけようかなと思いました。

ある日、一頭の牛を乗せたトラックが食肉センターの門をくぐってきました。明日お肉になる牛です。坂本さんが見ていると、助手席から十才くらいの女の子がとびおりてきてトラックの荷台に上がっていきました。なかなか女の子がおりてこないので、坂本さんは心配になってトラックに近づいてみました。

 すると女の子が牛に話しかけています。「みいちゃん、ごめんねぇ。みいちゃん、ごめんねぇ。みいちゃんが肉にならんとお正月が来んて、じいちゃんの言わすけん。みいちゃんば売らんとみんながくらせんけん。ごめんねぇ。みいちゃんごめんねぇ。」そう言いながら、一生懸命に牛の腹をさすっていたのです。坂本さんは「見なきゃよかった。」と思いました。

 トラックの運転席から、女の子のおじいさんが降りてきて、坂本さんに頭を下げました。「坂本さん、みいちゃんは、この子といっしょに育ってきたけん、ずっと、うちにおいとくつもりでした。ばってん、みいちゃんば売らんと、この子にお年玉もクリスマスプレゼントも買ってやれんとです。明日は、どうぞ、よろしくお願いします。」坂本さんはまた、「この仕事をやめよう。もうできん。」と思いました。

 坂本さんは家に帰り、みいちゃんと女の子のことをしのぶ君に話しました。「お父さんは、みいちゃんを肉にすることはできんけん、明日は仕事を休もうと思っとる。」しのぶ君は「ふ~ん。」と言って、すぐにテレビに目をうつしました。その夜、一緒にお風呂に入っている時、しのぶ君が言いました。「やっぱりお父さんがしてやったほうがよかよ。心の無か人がしたら牛が苦しむけん。お父さんがしてやんなっせ。」

 よく朝、坂本さんが仕事に行こうかまよっていると、学校に出かけるしのぶ君が、玄関で叫びました。「お父さん、今日はいかないけんよ!わかったね?」坂本さんは思わず「おう。」と答えてしまいました。そして、気が重いまま仕事へ出かけました。

 牛舎を見にいくと、みいちゃんは、他の牛がするように角を下げて攻撃するようなポーズを取りました。坂本さんがおそるおそる手を出すと、みいちゃんは、しだいに坂本さんの手をくんくん嗅ぐようになりました。「みいちゃん、ごめんよう。みいちゃんが肉にならんと、みんながこまるけん。ごめんよう。」坂本さんが言うと、みいちゃんは首をこすりつけてきました。坂本さんは牛の腹をさすりながら「みいちゃん、じっとしとけよ。動いたら急所をはずすけん、そしたらよけい苦しかけん、じっとしとけよ。じっとしとけよ。」と言いきかせました。

 いよいよ、命を解くときが来ました。坂本さんが、「じっとしとけよ、みいちゃん、じっとしとけよ。」と言うと、みいちゃんは、少しも動きません。そのとき、みいちゃんの大きな目から、涙がこぼれおちてきました。牛が泣くのを見たのは、これが初めてでした。

坂本さんが、ピストルのような道具を頭に当てると、みいちゃんはくずれるように倒れ、ぴくりともしませんでした。ふつうは、牛が何かを察して頭をふるので、急所からずれることがよくあり、たおれたあとで大暴れしてしまうのです。

 数日後、おじいちゃんが女の子と一緒に食肉センターにやってきて、しみじみと言いました。「昨日、あの肉ば少しもらって帰って、みんなで食べました。孫は泣いて食べようとしませんが、『みいちゃんにありがとうと言って食べてやらな、みいちゃんがかわいそかろ?食べてやんなっせ。』って言ったら、孫は泣きながら『みいちゃん、いただきます。おいしかぁ、おいしかぁ』て言うて、食べました。坂本さん、ありがとうございました。」坂本さんは、もう少し、この仕事をつづけようと思いました。   

       引用:読む 知る 話す ほんとうにあった食べものと命のお話(講談社)

私たちは、食事をする前に「いただきます」と言います。「いただきます」には、食べものとなってくれた植物や動物の命をいただくこと、そして食べものにたずわさってくれた人たちへのお礼の気持ちが込められています。

立春が過ぎ、梅の花もチラホラと咲き始めましたが、インフルエンザで休校や学級閉鎖で大変な状況は止みそうにありません。外出時のマスクの着用と帰宅時のうがいと手洗いを忘れずにおこないましょう。

それでは、ごきげんよう。